ドメイン登録による一攫千金の夢と現実
取得したドメインを転売することで、簡単に儲けることができる
まずは流行りの物や定番商品などの名前おもしろい文字列などの言葉を見つけ、「お名前・com」などのサイトでドメインを取得するだけでいい。
そうすると、たとえばある物の名前でドメインを取得した場合、その物を扱う企業などが「そのドメインを自分の会社で使いたい」と申し出てくることがある。それを売るだけで儲かる、というわけだ。
人気のドメインは「プレミアムドメイン」として億の値段がつくこともあるという
ドメインネームで高額だったものトップ10
住所と同じく、同じドメインは世界に1つしか存在しない。そしてその特性ゆえ、特にアメリカではビジネスにおけるドメイン名の重要性は非常に高く、社名やサービス名を考える際に、ドメインが取得できるかどうかは大きなポイントの1つである。
そうした背景もあり、多くのシンプルなドメイン名は高額で売買されおり、時には数億円規模の価値にまで及ぶことがある。今までに取引されたドメインネームで高額だったものトップ10をご紹介する。
ランキング | ドメイン | 取引価格 | 売買時期 |
---|---|---|---|
1位 | Sex.com | 1300万ドル | 2010年 |
2位 | Fund.com | 995万9950ドル | 2008年 |
3位 | Porn.com | 950万ドル | 2007年 |
4位 | Diamond.com | 750万ドル | 2006年 |
5位 | Slots.com | 550万ドル | 2010年 |
6位 | Toys.com | 510万ドル | 2009年 |
7位 | Clothes.com | 490万ドル | 2008年 |
8位 | Medicare.com | 480万ドル | 2014年5月 |
9位 | IG.com | 470万ドル | 2013年9月 |
10位 | . MI.com – | 360万ドル | 2014年4月 |
ドメイン高騰化する背景
理由の一つとして,ドメインによるアフィリエイトの存在が挙げられる。
ある程度まともな意味を持つドメインなら、たまたまそれを入力してみようという気になる人もいるだろう。たとえば、価格コムという有名なサイトがあるが、それではヒカクコムはどうだろうとhttp://www.hikaku.com/にアクセスしてみた人もいるのではないだろうか。
このようなドメインには、ある程度のアクセスが常に期待できる。薬を探そうとしてdrugs.comにアクセスしたり、旅行の情報を調べようとしてtravel.comにアクセスしたりする人はたくさんいるだろう。
こうしたサイトに、アフィリエイトを割り当てておけば,ドメインそのものがアフィリエイトによって収益をもたらしてくれる。
例:A8.netなど
実際、ドメインによるアフィリエイトの構築は、ドメイン・ブローカの間でもホット・トピックである。中には1つのドメインだけで毎日数十ドルから数百ドルもの収益を得ているケースもあるようだ。
sex.comなどは典型的な例で、アクセス数も非常に多く、アフィリエイトによる収益も相当なものだっただろう。このようなドメインを所有していたら,安価なオファーを受ける必要はない。結果として、ドメイン取引が高額化してきているというわけである。
悪意の登録
ひとつ断っておかなければならないのは,本来ドメインは自らが使用する目的のために取得すべきであり,転売目的で取得するようなものではない。たとえば、特定の組織が持つ登録商標を狙って意図的にドメインを登録したような場合は悪意とみなされる。登録商標という知的財産を同名のドメインによって脅かすという意思表示とみなされるからだ。
たとえば、JuliaRoberts.comやMorganFreeman.comなどは、登録が不正とみなされている。
日本の例では、bunshun.com、bungeishunju.com(文藝春秋社)や、biccamera.com(家電量販店のビックカメラ)などがある。ビックカメラは,biccamera.comを係争によって獲得するまでbicbic.comというドメインを使っていた。
また,.jpドメインではjaccs.co.jpが、係争の結果、カード会社(JACCS)に移管された。
また,goo.co.jpはgoo.ne.jpに敗訴したが、これは先願主義というドメイン登録の原則が貫かれなかった例でもある。先願主義とは要するに「早い者勝ち」の原則である。
たとえば、テレビ朝日やアサヒビール,旭硝子など“asahi”という名前のドメインを使いたい組織は複数あるだろう。しかし,asahi.comは朝日新聞が,asahi.co.jpは朝日放送が取得しているため,それぞれtv-asahi.co.jpやasahibeer.co.jp,agc.co.jpというドメインを使わざるを得ない。
もし、asahi.comを取得した人が朝日新聞の偽のサイトや読売新聞への誘導サイトを運営していたらこれは悪意の取得(使用)とみなされるだろうが、ドメインが商標保有者と無関係の目的で使われていたら,悪意を証明しにくいのだ。goo.ne.jpのブランディングはgoo.co.jpの登録以後に行われており,この点で世界的なすう勢とは異なった判断に見える。
係争のすべてが企業や著名者に有利な判断となっているわけではない。例えば,JAL.com所有者に対する日本航空の訴訟では所有者側が勝利している。JAL.comは,所有者が移転のために5万ドルを要求したという点が「悪意」とみなされそうなものだが,所有者名が“John Andrew Lettelleir”(略してJ.A.L.)であったため正当な所有権があると認定された。現在はJAL.comを日本航空が所有しているため,対価を支払って購入したものと推測される。
こうしたドメイン登録に関する判断は,各国の裁判所に持ち込まれることもあるが,ICANNに認定されている国際的な組織がある。
各組織のWebサイト上では,過去の判例が公開されており,裁定の基準を知る上で興味深い。
悪意で登録し多額の報酬を得るサイバー・スクワッタ
悪意でドメインを登録し,特定の企業や個人から多額の報酬を得ることを目的としているのが「サイバー・スクワッタ」である。だが、ときとしてドメイン・ブローカと紙一重と思われることもあるように思う。
よく、サイバー・スクワッタの例として紹介されているのがwhitehouse.comである。ホワイトハウスといえば,アメリカ大統領官邸の俗称として知られているが、その公式サイトはwhitehouse.govで運営されている。ところが,ホワイトハウスのサイトを見ようとする人は、.govではなく.comを入力してしまうことがある。ここに目を付けて,whitehouse.comでアダルト・サイトが運営されていた。whitehouse.comの所有者は,ほかにも同様のドメインをアダルト・サイトへの誘導に使っていた(現在は,アダルト・サイトではない)。
なぜ,whitehouse.comが不正取得として取り上げられないかというと,これは「white house(白い家)」という一般的な言葉を表しているに過ぎないからである。
whitehouse.comの運営者は,歌手のマドンナ(Madonna)に訴えられて高額で購入したmadonna.comの所有権を裁定で失ったことでも知られている。madonnaは特定の個人だけを指す単語ではないはずだが、有名人の名前(歌手のマドンナ)を悪用した例とみなされたのである(この判断には首をかしげる人も多い)。
ときどきYahoo!オークションなどで,明らかに有名商標を意図したと思われる出品があるが,これらは悪意の登録と判断されてもしかたがない。ただし,裁判や係争に持ち込む場合は,それなりの費用と労力がかかることになるので、深刻と考えられなければ、メーカーから見過ごされることもある。いずれにせよ,そのようなドメインで高額取引を期待することは不正なことなのだ。
「早い者勝ち」の原理が働く名前の衝突
“asahi”の例でも紹介したが,業種の違う会社同士で同じ名前を使っているケースもある。IT業界でSunといえばSun Microsystemsだが,英国ではSunという名の有名な大衆紙がある。sun.co.ukはSun Microsystemsが取得しているため大衆紙の方はthesun.co.ukを使っている。また,三菱鉛筆(mpuni.co.jp)は,三菱グループ(mitsubishi.com)とは関係ない会社だ。
大企業同士の場合は,「早い者勝ち」の原理が働くだけだが,ときどき小規模な会社の方が主要なドメインを取得している場合がある。
たとえばsharp.comは電機メーカーのシャープではなく,米国サンディエゴのSharp HealthCareという会社が使用している。fuji.comは富士写真フイルムではなくFuji Publishing Groupという会社が所有している。fuji.comの所有権について、富士フイルムはWIPOに裁定を持ち込んだが、所有者の使用に問題はないということで敗訴した。
海外の例では,mercury.comをMercury Technologiesという会社が使用していたが、70万ドルとソフトウエアの使用権と引き換えに品質管理ソフトで知られるMercury Interactiveに譲渡された。早い者勝ち競争に負けた大きな代償を払ったわけだ。
PC関連機器で知られる旧メルコ(現バッファロー)は、かつてmelco.co.jpではなくmelcoinc.co.jpを使っていた。melco.co.jpを三菱電機が使っていたためである。メルコはバッファローへの社名変更とともにbuffalo.jpというドメインをオフィシャル・サイトとして使うようになったが、最近三菱電機は,mitsubishielectoric.co.jpというドメインに引っ越したようだ。
まとめ
ドメインの取引事例を紹介したからといって,ドメイン登録で一攫千金を狙うことを薦めるわけでも反対しているわけでもない。
ただ現実問題として、何かしら特別な情報を知りえて(悪意で)ドメインを登録するということでもなければ、空いているドメインは「だれも欲しがらないから空いている」のであって,確実な需要が見込まれるものではないからだ。
そして不正に入手した情報でドメインを登録することは「悪意の登録」とみなされることになる。必要と思われるドメインは事前に取得していることも多い。
また、ドメイン・ブローカと呼ばれる人々は,価値あるドメインに対して,適切に投資しているため,ビジネスとして成り立っているのである。あるいは,既に取得済みのものを売却するだけの人もいる。いずれにせよ,素人の入り込む余地はほとんどない。
だが,どうしても欲しいドメイン,特に自分の名前に関するものや既存のブランドに関連するものについては,ほかのドメインでは代替できないものもあるだろう。こうしたドメインの入手や個人売買などについては,早めに取得することを勧める。
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